猫の朝帰り

午前中、ベランダへの窓を開けっ放しにしていたところ、気がつくとうちの兄猫である倫太郎が消えていた。

猫と暮らし始めて4年ほど経つけど、一緒に暮らしてわかったことは猫は消えるものであるということだ。

いつぞや玄関の外から猫の鳴き声がするなと思って開けみると、寂しそうに鳴いているのは弟猫の助六だったことがあった。

当たり前だけど猫には玄関のドアは開けられない。助六はドアをすり抜けて外に出て、家に入れなくなくなってしまったのだ。

ドアをすり抜けられるなら同じようにして入ればいいのに、そうしないのが猫のドジなところだと思う。

倫太郎は隠れるのが得意なので、これまでも妻と二人がかりで探してやっと倫太郎を見つける、ということが度々あった。今回もそんなことだろうと思っていたのだけど、部屋の隅から隅まで探して、箱や収納の中まで見ても居ない。 ベランダから隣の家へ入ってしまったのだろうと思って、お隣のベランダを覗き見ても、居ない。

彼の好物のちゅーるを入れる食器をカチャカチャ鳴らしても出てこない。普段はこの食器を出すだけでやってくるのだけど。

ということで途方にくれてしまい、出かける予定をキャンセルして家の隅々までくまなく探し、まさかと思いつつマンションの外の生け垣のあたりまで探しにいった。ちなみにウチは賃貸マンションの3階にある。猫だったらこの高さから落ちても平気だと聞くし。

とはいえ、万が一外に行ってしまったとなると厄介、というか手の打ちようがない。

人見知りの上にびびりな性格の倫太郎、何かにビビって全力逃走しようものなら家からあっという間に離れてしまう。 海外のニュースで引っ越した先の家まで飼い猫だか犬だかが追いかけて来た、という都市伝説のようなニュースを見たことがあるけど、いくら猫が賢しくてもマンションの3階までは上がってこないだろう。

一緒にベランダに出ていた助六も心配そうだ。こいつは倫太郎がどこに行ったのか知っているんだと思う。

同じ3階の他の家にも倫太郎の写真を持って聞きに行った。

「この子なら以前遊びに来たことがありますよ」

と言われて笑ってしまった。

君は人見知りでびびりのくせに、冒険心はいっちょ前なんだよな。

夜中まで窓を開けて待っていたけど、結局帰ってこなかった。

23時、諦めてベランダに水と餌とちゅーるを置いて窓を締めて寝た。

朝晩は肌寒くなってきた。外で震えている倫太郎を想像すると涙が出そうになるけど、それは本当の本当に最悪のケースだ。 おおかた隣の家に上がりこんでもてなされているのだろう、明日になったらきっと帰ってくるさと言い聞かせて布団に入った。

いつもは横になった僕たちの髪を踏んづけたり上に飛び乗ってくるモフモフが居ないのは淋しい。

・・・

明け方、助六が変な鳴きかたをするので目が覚めて、寝ぼけまなこで窓を開けて携帯のライトを照らしてみると、そこに倫太郎が居た。

「倫太郎?」

上ずった変な声が出た。

朝帰りがバレて気まずかったのか、僕に見つかったとみるや一目散に足元を走り抜けて部屋の中に入っていった。

倫太郎、お前はルドルフばりにどこかの町まで冒険していたのだろうか。それで、明け方になってまたトラックの荷台にでも飛び乗って帰ってきたのだろうか。

まさか翌日の妻の誕生日のためにプレゼントでも探しに行ってくれたのか。そのわりには手ぶらだったけど。

なんにせよ帰ってきてくれて嬉しい。

相変わらず僕が仕事をしていると背中を撫でろお腹を撫でろとうるさいのだけれど、しばらくは言うとおりにしてやろう。

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こいつです

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